「こんなに簡単に,楽しく成績上がっちゃうの!?」我ながら衝撃でした
「成績(平均点)が3〜6割アップし,指導時間も最大3割カットできる。そして,〈この授業はたのしい!〉の声であふれる。本当にそんなことが!?」
この授業方法が生まれたのは,苦肉の策でした。
私は基本的には一斉授業を行なってきました。一斉授業といっても,例えば仮説実験授業は,十分に設計されていないグループ討議型の学習などよりははるかによく頭を使い,充実した学びができ,授業の評価も圧倒的に良く,ひとつの完成形とも言えます。私は一斉授業が悪いとは思いません。
しかし,知識取得型で「高得点を目指す」「検定に合格する」といったタイプの授業は,どうしても黒板の前で延々と説明し,そして次第に生徒さんは脱落して夢の世界へ落ちていく・・・授業の終わりには『ああ,今日も生徒不在の授業をしてしまった。。。』と一刻も早く忘れてしまいたくなるような授業もありました。
ところが,8年ほど前に,「これは,どうやって教えたら全員に理解させられるか教え方がわからない」という問題にあたり,半ば投げやりに,「じゃあ,お互いに説明しあう形にしよう」と言ったところ,それまで冬眠していたような生徒さんたちが急にイキイキとしゃべりだし,中には私より上手く説明する生徒さんも出てきたのです!
私は教壇を下り,学び合う生徒さんたちに寄り添うことにしました。
最初はいくつかの問題を話し合わせるだけでしたが,次第に授業の半分,さらには8割程度まで。場合によっては,私が教える時間が0という「自動授業(自動運転授業)」にまでなっていったのです。
この授業の特徴
まずは,動画で概要を掴んでください。(10分。倍速なら5分です)
クラスは生き物ですので,選択肢を持ちながら,そのクラスに合った最適な方法を模索することになります。その際,「ほとんどの生徒さんがたのしい」「いやだと思う生徒さんが,これまでの授業よりは少ない」ということを判断の基準にしてほしいと思います。たのしく生きるということは,もっとも重視されるべき教育の本質だと思うからです。
オカザキ式反転ジグソー法は,次のような設計になっています。
【教員の準備物】
①大問4問程度の問題が印刷してあるプリントやPDF
※欲張らず,余裕をもって時間内に終わるようなものにしましょう。動画にはありませんが,語句などの説明も大丈夫です。インタリービング方式(動画)も検討してみてください。同じもの,または類題を宿題にします。(宿題にしなくてもよい)
②各問をコンパクトに説明した動画(ネット上の動画でも良い)
※生徒さんが真似をすることを意識して,真似(コピー)しやすい説明,板書にしてください。できる範囲で。。。
③小テスト(と解答) 易しめにしましょう
以下は,あれば良いものです
・PC/Chromebookとプロジェクター
・グループの進行がわかるもの(動画参照,なくてもよい)
【授業の進行】
前時,またはその授業の最初(Q&A参照)に決めた席に座ってもらいます。どうしても教師が教えたほうがいいことは短時間で教え,すぐにグループワークに入ります。4人が順番に担当問題の解説をして,教え合い学び合いをして,小テストで終わりです。(次の時間のポイントを大づかみに話しておくと,学ぶことのイメージがわくのでさらに良いと思います)
【マインドセット】
とにかく,生徒さんに「人に教えることは,自分のためになる」ということを,いろんな言い方でしつこく言ってください。実際にそうだからです。
オカザキ式反転ジグソー法には以下のような特徴があります。といっても,「絶対」はありません。あるとすれば,「これまでの授業より,教師も生徒もたのしい」です。
- 予習の最適化
- グループの形成
- 小テストもゲームに
予習の最適化
「反転」というのは,予習です。事前にインプットをしておき,授業ではアウトプットをします。「いや,予習をしてくるような学校じゃないんだ」と思う方もたくさんおられるでしょう。また,何回かの授業に一回,かなり長時間の意見発表やまとめをさせて,予習にかかる時間が一定でない授業もあるでしょう。
オカザキ式反転ジグソー法では,「毎時間」「数分間」の予習をして来てもらいます。「クラシル」という料理レシピのサイトをご存知でしょうか。料理の作り方が一切の無駄なく手際よく動画で紹介されています。文字の解説もあります。それが理想です。
オカザキ式反転ジグソー法では,数分で解説できる問題の動画を撮影しておき(もしネットに良い動画があれば,そのまま使うとより良い),この説明の仕方,板書の仕方を「コピー」してもらいます。つまり,理想の説明法をそっくり真似てもらうのです。
なお,それでも予習が難しければ,授業の最初に時間を取って「知識構成型ジグソー法」(CoREF)のようなスタイルにすることもできます。
グループの形成
例えば,じゃんけん。くじ。
たったそれだけのことで,人はワクワクドキドキします。
オカザキ式反転ジグソー法でも,グループ作成はゲーミフィケーションにしています。4人グループを,くじ引きで決めます。
くじの方法は,私は
①大きな封筒に,番号やグループを書いたくじを入れて引かせる
②エクセルマクロでくじ引きする
の2つをやってみました。
くじは,【担当する問題】と【所属するグループ】の2つを決めることになります。 このやり方も,
A 前時の終わりに問題もグループも決めておく
B 問題のみ前時の終わりに,グループは授業のはじめに決める
という2通りがあります。Aは,あらかじめグループがわかっているので,チーム感が強くなります。Bは誰が同じグループになるのかわからないので,緊張感があり,予習にプラスになることもありえるでしょう。(そうでないときもあります)
小テストもゲームに
その日に学習したことを授業の終わりに小テストして,【個人の点数】+【グループ平均点】をその日の得点にします。「自分のがんばりで,他のグループメンバーに貢献する」というのは,人によってはいやらしいと感じるかもしれません。『こいつがいると,点数が下がるから嫌だな』と思われるという可能性はあります。それは,スポーツでもなんでもそうです。
ただし,くじによって毎回メンバーが変わること,そして,毎時間行なうことによって,意外な良さに気づくことで,おそらくやらずに危惧ばかりするよりは,「意外に大丈夫だった」「一斉授業にないメリットがあった」「説明の仕方がコピーでいいので,普通の話し合いより,生徒もラクだった」ということがわかると思います。
クラスは人間の集団であり,機械ではありませんから,気を配るべき点が多いのは事実です。しかし,教師が教えないことで,その余裕ができてきます。
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エピソードがあれば聞かせてください。
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このオカザキ式反転ジグソー法は主に高校2年生で行なったのですが,1年生のときにクラスに馴染めなかった生徒さんが,果たして参加できるだろうか,もしかして学校が嫌になってしまうのではないかと毎年のように心配していました。
Aさんは,クラスで居場所がなく,1年生のときはお昼ごはんを食べる場所がなくて弁当を片手に階段の隅や目につかない場所を転々としていました。2年生になり,この授業が始まったわけですが,この授業では自分の居場所があることがすぐにわかったようです。自分の担当問題を,動画の解説を真似してしっかりやっておくだけで,周りからは拍手がもらえます。予習のできていない生徒の補助をするなどしてますます自分の存在意義,自信を深めていき,夏休み前には,すっかりクラスになじんで,行事などについても積極的に発言する明るいAさんの姿を見ることができ,うれしく思いました。「軽い負荷とチャンス」が功を奏したのでしょう。
Bさんは,授業中に黙っているのが苦手で,よく注意をされていました。このオカザキ式反転ジグソー法は自由がみなぎっている授業で,Bさんにとってはまさに「我が意を得たり」でした。非常に良い成績をあげ,志望校の推薦入試ではこの授業のことを志望理由書に書き,面接でも述べたそうです。そして,栄えある合格!この授業のことを入試に生かした生徒さんはたくさんいます。生き方に影響を受けた,人生が変わった,という生徒さんもいました。
Cさんは,意見を求められると頭が真っ白になって,時には泣いてしまうこともあります。人前でしゃべるということに極度の苦手意識を持ち,口を開く回数もとても少なかったです。しかし,この授業で毎回数分間の「だいたい覚えて話す」という練習を積み重ねることで,人前で話すことの恐怖感が薄れてきたようです。数人グループでの冗談も言いながら,そして「言うことがアバウトに決まっている」という気楽な環境が,Cさんにはプラスに働いているようです。成績も上がっています。
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どこまでアレンジしてよいですか?
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これまでの授業に比べ,「嫌な気持ちになる生徒さんが減り,たのしいと感じる生徒さんが増える」のであれば,どのようにアレンジしても良いと思っています。「たのしい」ということは,何にも代えがたい価値で,それを授業で提供できるのは,教師としての最高の喜びだと私は考えています。アレンジされたら,「山田式〜」とか「きみ子式〜」などと名前をつけてくださっても構いません。
私自身も改善,挑戦の連続でした。
生徒さんが予習してくれないだろうと思っていた時は,
・予習なし。授業の始まりでくじを引き,各グループより同じ問題が担当になった生徒さんたちが一緒に解説動画を見て,理解できるように学び合い,グループに帰って順次説明をするグループメンバーにこだわりがある時は,
・女子が2人しかいなくて心細く,できるだけ一緒のグループになりたかった生徒さんは,同じグループのくじが出るまで何度も引いていたが,そのズルを見逃してやった。やり慣れてくると,普通にズルなしでできるようになった。行事で疲れている時は,
・私が教えた。コロナ禍による休校オンライン授業では
・プリントは全部紙またはPDFにして配布しておいた。
・Zoomのブレイクアウトルームを使って,担当生徒さんはChromebookに画面共有で書きながら説明した。そうはいってもマンネリ化するので
・進度が早いので,浮いた時間でときどき,仮説実験授業や問題解決,動画視聴など,人生に役立つ学びをした。気をつけていたことは
・自分のご機嫌をとって,もし不機嫌でもそれが伝染しないように心がけた。(仮に不機嫌でも私がしゃべらないので通常授業よりはバレにくい)